1. はじめに

令和4年度税制改正関連法が令和4年3月31日に公布され、翌4月1日から施行されました。法人に関する税制改正で大きな注目を浴びていた「グループ通算制度における投資簿価修正制度の見直し」に関しては政令で定めるとされており、税制改正大綱や法案からは詳細が分かりませんでした。今回は、4月1日に施行された施行令及び施行規則から改めて判明した点や改正点を踏まえた実務への影響を考えてみます。

2. 見直しの内容

まず、改正前後の取扱い及び見直しの内容をご紹介します。

改正前改正後
投資簿価修正制度通算子法人株式の帳簿価額
(+簿価純資産不足額)
又は
(-簿価純資産超過額)
通算子法人株式の帳簿価額
(+簿価純資産不足額+資産調整勘定等対応金額)
又は
(-簿価純資産超過額+資産調整勘定等対応金額)

※簿価純資産不足額:簿価純資産価額-通算子法人株式の帳簿価額
※簿価純資産超過額:通算子法人株式の帳簿価額-簿価純資産価額
※資産調整勘定等対応金額:通算子法人株式の取得時に非適格合併等があったとした場合に資産調整勘定又は負債調整勘定として計算される金額
※簿価純資産価額:税務上の資産の帳簿価額合計額-税務上の負債の帳簿価額合計額

投資簿価修正は、連結納税制度を採用している企業グループ内の二重課税の排除や租税回避を防止する目的で設けられている仕組みです。グループ通算制度は、連結納税制度に代わるものとして新たに創設された制度ですが、連結納税制度と同様の考え方のもと投資簿価修正の仕組みが設けられています。

改正前は、通算子法人株式の帳簿価額を通算子法人の簿価純資産価額に修正する仕組みとなっていました。この仕組みの場合、連結納税制度と同じく企業グループ内の二重課税を排除することはできますが、簿価純資産価額を超える金額で取得(買収)した子会社株式を売却した際に、その超える部分の金額が譲渡原価として損金にならない点が問題視されていました。しかし、令和4年度税制改正により、資産調整勘定等対応金額を加算する措置が追加され、この問題点が解消されることになりました。

【イメージ図】

3. 施行令等で改めて判明した事項

令和4年度税制改正で上記の改正がされましたが、詳細は施行令で定めるとされていました。そして、3月31日に公布された施行令にて改めて判明した点は以下の通りです。

① 確定申告書等に資産調整勘定等対応金額の計算に関する明細書の添付、かつ、計算の基礎となる資料の保存が必要。つまり、添付及び保存の両方がなければ適用不可。
② グループ各社で通算子法人株式を取得している場合には、いずれかの法人が明細書添付及び資料保存があれば適用可。
③ 税務署長による宥恕規定がある(書類の保存がなかったとしても、止むを得ない事情があると税務署長が認めた場合には適用可)。

書類(=情報)がなければ、そもそも資産調整勘定等対応金額を計算することが困難ですが、やはり税制改正大綱の記載通り、書類保存が必須とされました。書類の有無に止むを得ない事情がある場合は、自然災害等による滅失等、自らの責任ではない事象で書類がない場合しか想定されないため、宥恕規定が設けられたといっても、適用されるのは限定的だと考えられます。

4. 実務への影響

令和2年度税制改正でグループ通算制度が創設された当初は、連結納税制度と比較してのれん相当額が譲渡原価として損金に算入されない(譲渡益が大きくなる、または、譲渡損が小さくなる)ことに反対意見が多く出されました。私自身、租税回避を防止するために必要な措置ではあると理解しつつも、M&Aの実務では時価純資産を超える金額で買収することは多く、改正前の投資簿価修正制度には疑問を抱いていました。事業投資として行う買収において、買収段階で将来の売却を考えているケースは少ないと思いますが、グループ通算制度適用開始前に見直されたことは歓迎すべきことだと思います。

次に書類保存がない場合には適用できない点に対し、反対意見もあるようですが、私個人としては実務への影響はあまりないと考えています。そう考える主な理由は以下の通りです。

① グループ通算制度を適用する企業は上場会社等の大企業が多い
連結納税制度を適用している企業グループは取り止めの申請をしない限り、グループ通算制度に移行されます。連結納税制度を適用しているのは上場企業等の大企業が多く、そのような会社であれば、投資決定の判断材料にする、株主への説明責任を果たす、社内稟議を通す等のために外部専門家に財務デュー・ディリジェンス(以下、財務DDと言います。)や企業価値算定を依頼することが一般的です。客観的な書類を外部専門家から入手しているケースがほとんどであることから、グループ通算制度を適用する上場会社等の大企業には影響はほぼないと考えています。

② 重要な情報を破棄することはないこと
M&Aは重大な意思決定をして行います。請求書等は税務調査や青色申告等の観点から5~10年間は保存し、保存期限後に破棄することは多いですが、M&Aに関する資料(M&A当時の被買収会社の財務書類、株式譲渡契約書等)は重要書類として破棄しないと考えられます。紛失や滅失は除きますが、書類が残っているケースがほとんどだと思いますので、同じく影響はほぼないと考えています。

5. 終わりに

グループ通算制度の投資簿価修正制度の見直しに関して、施行令等の情報が出たことから改めて実務への影響を考えてみました。滅失等により書類が保存されていない場合には宥恕規定の対象になる可能性はありますが、滅失等以外で計算に必要な書類がないケースは実務上ほとんどないと考えています。ただ、売手と買手の力関係、売手による早期M&Aの要望等の理由により譲渡契約書の条項でリスクヘッジや補償を定め、財務DDは行わないM&A取引もあるかもしれません。また、大企業だからといっても相当前に実施したM&A取引の書類や情報が残っていない可能性もゼロではありません。投資簿価修正における資産調整勘定等対応金額の計算で重要なことは、税務上の時価純資産を適切に把握することです。したがって、財務DDは行わないケースにおいても、資産(主に不動産、有価証券)の含み損益の計算に必要な当時の路線価、株価等の時価情報は国会図書館等の外部機関から探し出すことができるかもしれません。グループ通算制度を適用する企業、適用を検討している企業は、将来の子会社株式売却時に備え、過去に行ったM&A取引に関する情報を改めて整理又は精査し、不足している情報があれば事前に整備しておくことが重要になると考えます。また、実務家である税理士としても、クライアントがM&A(買収)を実施する際に書類保存の観点から財務DDの必要性を説明するとともに、投資簿価修正が起きる(つまり、子会社株式を売却する)可能性を考慮して、買収時の資産調整勘定等対応金額を算定し、情報提供しておくことが重要だと改めて感じています。

岡元 譲

税理士法人山田&パートナーズ
シニアマネージャー 税理士

2004年入所。法人のお客様向けに、税務顧問、企業組織再編、M&Aコンサルティング等を幅広く担当。

• 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
• 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
• 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。


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